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エル・グレコ展

 都美術館のエル・グレコ展に行く。フェルメール展の時の、ほとんど狂騒的な混み様を想定し、喧騒を覚悟して出かけたのだが、予想以上に空いていて、じっくり鑑賞することができた。
 絵のそばに立つ。未完成にすら見えるマチエールの奔放さが目に飛び込んでくる。親指の幅ほどの筆跡を残した画面。一方向に流れるように、なでつけるように、しかし筆跡は残しながら、5㎝~10㎝くらいのタッチをリズミカルに重ねていく。フランチェスコ像などでは、ぶれずに焦点の定まった部分と、放射状に広がるタッチによりかすかなブレを与えられた画面とが意識的に使い分けられ、まるで、放射状にぼかしが入る特殊フィルターを装着して撮影した写真のような迫力すら生み出している。画面の奥から、ゆらぎながら現れ出るような、動きを感じさせる画面。人物の輪郭を明確に区切らず、勢いではみ出してしまった部分をそのまま残したような一見無造作な処理が、かすかなブレを捉えた写真のような、動きの残像として人の眼に映るのだ。
 無地の背景に聖人が描かれた作品も、近寄ってみるとレンガ色と青灰色を巧みに画面上で混ぜ合わせ、変化を出していることがわかる。柔らかな筆でなでつけるようにぼかしこみながら、境い目が消える直前で止める手加減の見事さ。
 もともとイコン画家から出発した、という画家の出自のせいか、あるいはイタリアを経由してスペインに至るまでにフレスコの技法を学んだものか定かではないが、表面を強めに洗浄したらしい作品の前に立つと、人物の下地に緑系の顔料を用い、その上にピンクや黄を混ぜた白を盛り上げて、透明感のある白人の肌を表現していることがわかる。頬やあごの影、腕や体の筋肉の影などは、墨色を柔らかな筆でぼかしこむように重ねている。全体に、グレコ特有の蒼ざめた肉体の生々しい質感と、上昇していくような、あるいは手前に抜け出してくるような運動感が漂う。
 人物のプロポーションなどのダイナミックな引き伸ばしは、ミケランジェロなど同時代の画家に学ぶだけではなく、グレコ自身が書物などから多くを学び、研究していたことを知った。ウィトルウィウスなどの書物に、グレコ自身が極めて丁寧な文字で(ということは、後世の人々が読む、ということを想定していた、ということでもある)彼の発見や反論、着想などを書き込んでいる。非常に理知的な探求者であったようだ。
下から煽って観る位置に設営されていればそれほど不自然には感じなかったと思うが、視線と同じ高さで展示された作品の前に立つと、手が顔に比して大きい作品が目立つ。肉体の引き伸ばし以上に、手の比率の大きさが印象に残った。
エル・グレコ展_d0264981_1333178.jpg

by yumiko_aoki_4649 | 2013-02-12 13:34 | 美術展感想
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詩や詩に関わるものごとなど。


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