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くまいちごが実ったら

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くまいちごがいちめんにみのる
つゆにぬれておもくあかく
うれた空気が私の中をみたしふくらみ

時が来たのだ
私はおまえを野に連れていくだろう
しめった鼻先が甘さにまひし
ぬれた舌先が酸っぱさを見失うまで
私はおまえのそばに立っていよう

私の左胸にほほをおしあて
汗でみっしり湿っていく幸福
胸をあわせ息をあわせひとつの鼓動にとけていくとき
おまえと私を包む温かい土の部屋は
にわかにさざ波の音が満ちて
海のうねりにひたされていた

鼓動を求めたおまえのほほの温みを
私は今も覚えている
黒々と毛も生えそろい
猛々しい青草と麝香と樟の匂いを
波打つ皮膚の下から放ちながら
大地を踏みしめて立つその黒い胸に
くっきりと三日月が浮かぶ今になっても
おまえは私の口先を舐め足裏を舐め
ぬれた鼻先で乳のありかを探ろうとする

時が来たのだ
おまえは森の王にならねばならない
無風にも気を察知して震える触覚のように
全身の毛がそそけだち
百千の生き物の眼を刺し返すみなぎりを得るまで
一人で崖の上に立たねばならない

私はおまえを野に連れていく
赤い甘さと酸っぱいつゆにまみれ
果実をむさぼり呆けているうちに
私は後ずさり川を越え痕跡を消し
ついにおまえを忘れるだろう
左胸に残る余熱を激しく欲しながら
私は忘れるためにみごもり
丘に新しい穴を掘る

                         『詩と思想」2016年3月掲載(Freepikによるデザイン
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by yumiko_aoki_4649 | 2016-04-03 10:58 | 詩、詩論 | Comments(0)
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詩や詩に関わるものごとなど。


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