Yumiko's poetic world

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カテゴリ:詩、エッセイ( 23 )

茨木のり子さんの言葉について、想うこと。

いちど視たもの――1955年8月15日のために――
        茨木のり子
       
いちど視たものを忘れないでいよう


パリの女はくされていて
凱旋門をくぐったドイツの兵士に
ミモザの花 すみれの花を
雨とふらせたのです・・・・・


小学校の校庭で
わたしたちは習ったけれど
快晴の日に視たものは
強かったパリの魂!


いちど視たものを忘れないでいよう


支那はおおよそつまらない
教師は大胆に東洋史をまたいで過ぎた
霞む大地 霞む大河
ばかな民族がうごめいていると
海の異様にうねる日に
わたしたちの視たものは
廻り舞台の鮮やかさで
あらわれてきた中国の姿!


いちど視たものを忘れないでいよう


日本の女は梅のりりしさ
恥のためには舌をも噛むと
蓋をあければ失せていた古墳の冠
ああ かつてそんなものもあったろうか
戦いおわってある時
東北の農夫が英国の捕虜たちに
やさしかったことが ふっと
明るみに出たりした


すべては動くものであり
すべては深い翳をもち
なにひとつ信じてしまってはならない
のであり
がらくたの中におそるべきカラットの
宝石が埋もれ
歴史は視るに値するなにものかであった


夏草しげる焼跡にしゃがみ
若かったわたくしは
ひとつの眼球をひろった
遠近法の測定たしかな
つめたく さわやかな!


たったひとつの獲得品
日とともに悟る
この武器はすばらしく高価についた武器


舌なめずりして私は生きよう!


(この詩を、もう一度読み直したくなった。「教育」が、何を残すか、何をもたらすか・・・なにひとつ信じてしまってはならない、この苦い宣言は、いったいなんなのか・・・)


もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には 倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくはない


ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい


(怒りや無念を通り越して、痛いような悲しみとしてそこにある絶望の重さ。日本は、日本人は、「敗戦」から何を学んだのだろう。)


金子さんは、自己の感受性を何ものよりも信じた人であり、自分自身の頭と躰だけで考えに考えた思考の人である。このごく当たり前のことが日本人の最も苦手とするところだ

(『金子光晴詩集』に茨木さんが寄せた言葉。金子光晴は、茨木さんの前で「ええかっこしい」だったかもしれない、けれども・・・それを差し引いた、としても・・・茨木さんの日本人評に関しては、今でも当てはまるような気がする。)


わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った


わたしが一番きれいだったとき
わたしの國は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた


(戦時中、自分の頭で、躰で、考えなかった・・・自分の感受性を信じることができなかった・・・その悔恨と苦さを、痛みとして引き受けて生きていく。これからは、自分自身の頭と躰で、感じて、考えて、生きて行ってやる。そんな悔しさや無念や怒りや決意が、「わたしが一番きれいだったとき」の、一見ポジティブに見える表現――の中に重く沈んでいるように思う。
「わたしが一番きれいだったとき」を読むと、戦争中のことは忘れて、これからを生きよう、というポジティブさが感じられる、という感想をネットで見かけたので――これからを生きよう、という決意の強さに関しては、否定しないけれども――書きつけておきたくなった。)


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by yumiko_aoki_4649 | 2017-03-11 11:22 | 詩、エッセイ | Comments(0)

第10回「文芸思潮現代詩賞」(2014年度)優秀賞

海がふくらんでいく
うずくまっていたものが
ゆっくりと足をのばし雄叫びをあげる
通り過ぎる気配だけが野を吹き抜け
押しよせる透き通ったかたまりが
私をのみこみあふれ流れ

かろうじてつかんだぬるい体温は
灰となって指の間からこぼれ
私はからっぽの水槽
ひとりふるえている

あなたの芯で生まれ直す種の
守られている場所は熟れて朽ちて
くずれていく肉の甘さ

のみこんだ種が芽吹き始める
ひしめきあい押しのけあい
やがてひとつだけが
のびて のびて
私を内から突き破り
指先から萌えだす若葉
かずらとなってからまりゆく黒髪の先
白い枝が肌を裂いて
ひろがりながら天をおおう

真昼の木漏日を糸に紡ぎ
織り上げていく一枚の布
舞い落ちる葉を織りこみ
実りを搾りその汁で染め
大地を横切る茜色の川に
織り上げたものをさらす

喉をうるおし身をやしなう
あなたの果肉が
天をおおう枝の網目に
たわわに実り
夜を埋め尽くして
輝いている

2014年度なので、3年前になりますが・・・「文芸思潮」現代詩賞「優秀賞」作品をアップします。若干、改稿しました。
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by yumiko_aoki_4649 | 2017-03-06 11:03 | 詩、エッセイ | Comments(0)

帰郷(『POCULA19号』)

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・・・編集時に、イメージに合う写真を添えて下さったようです・・・。
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by yumiko_aoki_4649 | 2016-09-06 16:04 | 詩、エッセイ | Comments(0)

領域侵犯(『千年樹』67号掲載)

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by yumiko_aoki_4649 | 2016-08-24 23:44 | 詩、エッセイ | Comments(0)

くまいちごが実ったら

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くまいちごがいちめんにみのる
つゆにぬれておもくあかく
うれた空気が私の中をみたしふくらみ

時が来たのだ
私はおまえを野に連れていくだろう
しめった鼻先が甘さにまひし
ぬれた舌先が酸っぱさを見失うまで
私はおまえのそばに立っていよう

私の左胸にほほをおしあて
汗でみっしり湿っていく幸福
胸をあわせ息をあわせひとつの鼓動にとけていくとき
おまえと私を包む温かい土の部屋は
にわかにさざ波の音が満ちて
海のうねりにひたされていた

鼓動を求めたおまえのほほの温みを
私は今も覚えている
黒々と毛も生えそろい
猛々しい青草と麝香と樟の匂いを
波打つ皮膚の下から放ちながら
大地を踏みしめて立つその黒い胸に
くっきりと三日月が浮かぶ今になっても
おまえは私の口先を舐め足裏を舐め
ぬれた鼻先で乳のありかを探ろうとする

時が来たのだ
おまえは森の王にならねばならない
無風にも気を察知して震える触覚のように
全身の毛がそそけだち
百千の生き物の眼を刺し返すみなぎりを得るまで
一人で崖の上に立たねばならない

私はおまえを野に連れていく
赤い甘さと酸っぱいつゆにまみれ
果実をむさぼり呆けているうちに
私は後ずさり川を越え痕跡を消し
ついにおまえを忘れるだろう
左胸に残る余熱を激しく欲しながら
私は忘れるためにみごもり
丘に新しい穴を掘る

                         『詩と思想」2016年3月掲載(Freepikによるデザイン
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by yumiko_aoki_4649 | 2016-04-03 10:58 | 詩、エッセイ | Comments(0)

花に触れる

しおれたシクラメンを
引き抜いていて
うっかり
つぼみのくびを
はねてしまった
うずくまるつぼみ
青臭いにおいがただよう

密生する葉が
おおいかくしているもの
競い合うように
空隙を目指して
突き上げる力
そのあらわれを
私の不注意が
はねてしまった

にぎったままの
しおれた花が
うすい膜のように
指にはりついてくる
萎えた茎から
にじむ粘り
ふり払うように捨てる
私の指

窓越しの冬陽は
羽根布団のようにやわらかい
ゆっくりと鉢をまわして
シクラメンを眠らせる
                                          『千年樹』65号
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by yumiko_aoki_4649 | 2016-02-20 21:48 | 詩、エッセイ | Comments(0)

てのひら

灯はろうそくから少しだけ離れて灯り
のびあがりながら震えている
そのすき間に指を差し入れ
手のひらにすくいとり
あなたは私に
火を飲ませてくれる

ただれた手のひらに
水よりも冷たい指を重ねる
小さな透き通った湖が生まれ
ささくれ立った床板に吸いこまれていく
とけていく私がくずれてしまう前に
どうかだきしめてください

赤く剥けて腫れ上がり
それでもなお口元に添えられる指
私の空洞を燃え広げていく青い火が
すべてを軽い燃えがらに
吹きならしていく前に
どうぞのみほしてください

雪はただ灰のように
あらゆるものの目を覆い隠して
あとからあとから生まれ落ちる
冷たさではなく痛みを
あなたの痛みを感じる身体を
どうかあたえてください

私は灰の中で赤熱する
                                 『千年樹』64号掲載
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by yumiko_aoki_4649 | 2015-12-04 14:59 | 詩、エッセイ | Comments(0)

第24回詩と思想新人賞受賞作品

とよとよとよ るゐるゐ とぷん
とよとよとよ るゐるゐ とぷん
沖縄の内海には濁音がない

ひとところにつもりゆく白い骨
のような珊瑚
一度は生きていたものが
この島を太らせていく

空と海のあわせめを
目の奥に引き寄せる
海からぞくぞくとあがってくる白い影
陽に照らされて泡にくだけ
波打ち際に打ち寄せる

押し寄せる声は
濁音に紛れ乱され

とよとよとよ るゐるゐ とぷん
とよとよとよ るゐるゐ とぷん
耳をすませれば皮膚が消え輪郭が消え
静けさに手渡されていく体も消えて
わたしの芯にせりあがる波

 ずぶりと砂地に差し入れられた
 アダンの気根
 太い肌に触れれば熱を持って熱い
 大地をつかみとる強さで
 奥底からこみあげるものを吸い上げる

 琉球松の葉は
 太陽(ティーダ)のゆびが編みあげた組み紐
 黒松のように掌を刺すことがない
 顏の無い塊りの風を押し返し跳ね返し
 触れればやわらかに指になじむ

 焼夷弾に燃え尽きたアカギの大木
 根を割って伸びた新しい木が
 押し開いてうねりのびて
 引き裂かれた傷からあふれだすみどり

とよとよとよ るゐるゐ とぷん
とよとよとよ るゐるゐ とぷん
空が傾いて押し寄せてくる
胸を裂いたような赤に吞まれ
ひた寄せる波音を聞いている                      (『詩と思想』2015年12月号)
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「沖縄」を書く、ということの意味を、何度も何度も考えた。
ひとときの旅人の感傷、浅薄な正義感に侵されていないか。
あの日、あの場所で、本当に感じたこと。
私が、伝えずにはいられないこと。
その衝迫。
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タクシーのドライバーさんが、ここに「おじいがいるから」と連れて行ってくれた、平和の礎に刻まれた名前の前で感じたこと。一緒に折り鶴を折りながら思ったこと。本当に身近に、死者たちが息づいている、ということ。
二度と繰り返しませぬから、という誓いは、誰のために誓われたのか。
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あふれかえるような、植物たちの生成のエネルギー。
度重なる台風から、この島を護ってきた防風林の琉球松の葉の、意外なほどの柔らかさ、しなやかさ。



作品提出後も、あれでよかったのか、と悩んでいた。そんな時に、まるで応えのように届いた詩があった。

詩誌『交野ケ原』79号に、「豆が花」という詩を水島英己さんが寄稿されている。その、最終三行。

おまえは聞こうとしない
歌うことのない花がぼくらの間に咲いているからだ
無関心という花
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生死を越えて、耳をすませている人々に、ものたちに、その土地に息づくものに、声を届けるということ。想いを伝えるということ。
それが、私の祈りだと思う。

拙い言葉ながら、このたび機会を得て、文字という形に残すことができた、ということが、何よりもうれしい。
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by yumiko_aoki_4649 | 2015-11-30 10:57 | 詩、エッセイ | Comments(0)

今月の「詩と思想研究会」提出作品

網を張る


おおきくはりめぐらせた網に 朝露が重くゆれている 八本の
足の爪の先まで すべてを目にして ひきよせられてくるもの
を待つ

きのう捕えたかげろうの 秋空を薄く カミソリで削いだような
薄翅は あらゆる色を映しながらも 留めることを知らない薄い
皮膜に過ぎなかった 糸でからめとり 体液を吸う のどもと
を過ぎていくのは メロンジュースのようなみどりいろ

網のふるえが爪先から腰を抜けて腹の底に届く 暴れる蝶の
鱗粉は 角度によって色を変える虚飾の泡沫でしかなかった
掴もうとすれば 網の隙間から落下していく ほしいものは
基盤と骨組み 起点を束ね翅を羽ばたかせる 胸の筋肉

破られていく網をまたぎ越して 入念に糸をかける 二度と
飛び去って行かないように それから胸もとにねらいを定めて 
口もとの針を打ちこむ とかされのどに流れこむのは ブラッ
ディオレンジと梅の芳香 それから胆汁のような底冷えする味

翅の力も借りず 風の力にも頼らず やわらかなからだの
内実のみで 空を飛ぶことはできないものか ふくらんだ腹を
ひきずりながら 網を手放せば落ちる重い肉体を想う

大地に打ちつけられる前に 私は糸を放つだろう のどもとを
過ぎていった肉が とけあい変容し 透明な粘液となって中空
に産み出される 風がそれを糸に変える 腹の先に連なる糸が
からだを空の高みへと運び上げる

私を充たすものよ 飛びこんで来い 飛ぶに不得手な不器用
な翅を せわしなくばたつかせて まるまると肥えた うまそう
な腹を 空の陽にさらけだして 自分の力で飛ぶものの肉に
私は 飢え 餓えている

研究会6月(講師・詩友の講評を得て、若干改稿しました)
本来は縦書きです。
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by yumiko_aoki_4649 | 2015-06-28 11:29 | 詩、エッセイ | Comments(0)

陽だまり(『詩と思想詩人集2015』)

石が息をしていた
たどたどしい手つきで
タオルの上に寝かしつけて
娘が小さなふとんをかけてやる
添い寝する娘のかたわらで
ゆっくり育っていく河原の石

膨らんでいく石の腹に
記されている火の記憶
幾重にも刻まれた傷痕
内から開かれるにつれ
こぼれ落ちていく文字

指先で触れるたびに
私の芯で沸騰するものがある

息でぬくめられた小石
じっとみつめていると
しだいに溶けて丸く窓が開いて
引きこまれていく脈動する闇
くらやみの中で星がひとつまたひとつ
生まれ耀く瞬間を見る

耳の中で息が膨らんでは閉じ
娘の匂いがくびすじをすべり
つなぐ手をのばそうとしても
私のからだの見つからぬ安息

カーテンのふくらみから
降りてきた光の中で
娘が静かに目を開き
石をタオルにくるみこんで
タンスの引き出しにしまう

眠りから解き放たれた文字が
光の中を浮遊している
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by yumiko_aoki_4649 | 2014-12-04 14:36 | 詩、エッセイ | Comments(0)
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詩や詩に関わるものごとなど。


by まりも
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