星の王子様
子どもの頃は、様々な星をめぐってきた王子と、地球人との対話、という表のストーリーしか読むことができませんでした。終わり方も不可解。なぞばかりが残る厄介な本でした。でも、大人になって読み直して、王子と王子が愛した薔薇との、切ないまでの行き違いが、胸に迫ってくることに気が付きました。
王子を愛しながら、それを素直に表現できない薔薇。自分は動くことができず、人間になって王子に近づくこともできない、そんなもどかしさが、薔薇のわがままを加速させたのかもしれません。薔薇に振り回された挙句、薔薇の気持ちを読み取れないまま自分の「ふるさと」をすら捨てて、逃げ出そうとする王子。薔薇のそばを離れて初めて、自分の星の素晴らしさや薔薇の想いの深さに気づくのです。
自分の星を守るために、バオバブをヒツジに食べさせたい、という王子のセリフも、象徴的です。ヒツジはイエス・キリストを連想させます。星をめちゃくちゃにする、虚栄の大木を、まだ小さな内にヒツジに食べさせたい、という作者の願いでしょうか。でも、そのヒツジが「愛する薔薇」を食べてしまったらどうしよう、と、また小さな王子は思い悩みます。

こどものまなざしで「世間」や「社会」を見るとき、私たちは王子と同じ小さな星の上に立って、地球の上の出来事を驚きの目で見ることができるのかもしれません。