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宮城ま咲詩集『よるのはんせいかい』感想

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宮城ま咲さんの詩集『よるのはんせいかい』が、第31回福田正夫賞を受賞されました。おめでとうございます。昨年末になりますが、宮城さんに私信でお送りした感想を公開します。


『よるのはんせいかい』ご恵送ありがとうございました。

谷川俊太郎さんが、童心や幼心というものは、大人になるにつれて失われてしまうのではなく、年輪のように真ん中に残っている、そしてポエジーはその芯の部分から発してくるのだ、とどこかで書いていましたが・・・宮城さんが少女のころの気持ちにストンと入り込んで、そこで弾むように語ったり歌ったりしておられる印象があり、心惹かれる詩集でした。

悲しすぎると、困惑して微笑むしかない、そんな時がありますが・・・宮城さんの詩行の間を蝶のように飛び回っている微笑みの妖精がいて、少女が堪えられなくなって泣きそうになると、ふっと肩に手を触れて微笑ませてくれるのではないか・・・全体に適度に配された、ユーモアを感じさせる表現の数々に、そんな温もりを感じました。

「けんとうし」の〈バックアップをとる間もなく〉、「八時二十分」のリズミカルな進行や〈父が怒らなくなる予定だったことも〉、あるいは「からあげ」の中の〈香ばしい本日のひとしな〉というような、ふっと痛切さや深刻さから気持ちをずらしてくれるようなユーモア、「雪は確かに好きだけど」の〈肉体の使用権を返却しに〉行く、というような想念(私も、魂が肉体を借りて、この世でひとときの生を過ごすのだ、という想いを抱いています)が、とても魅力的だと思います。「おめかし」に描かれる体の反応は、意識では把握できていない(あるいはあまりに悲しみが大きいので、心が感じないようにセーブしている)事柄を、体は正直に素直に表現してしまうのだということの証のように感じられました。

夜の底に押し付けられるような息苦しさの中で夢想を働かせたり孤独に耐えたりする時間が、宮城さんの詩人としての資質を育んだのかもしれません。「消しゴム買わずに」の〈息の仕方を勉強し直す〉という表現や、「物知りお父さん」の〈のしかかってくる黒い天井〉にはっとさせられました。私は幸い喘息になったことはありませんが、未体験の者にも実感として伝わってきます。

 「笑顔じゃなくても」の中で、思わず写真を探し回ってしまう自分自身に出会うという部分や、「ハズレを引き当てる」の中で思いがけない共通項に嬉しくなるところが素敵ですね。怒ってばかりいるお父さんなんてキライ・・・と思っている子ども心と、そんな自分を、どこかで好きになれなかったり、お父さんの期待に応えられない、自分はダメな子なんだ、と自信を無くしてしまったりする思春期の心、そして、やっぱり自分はお父さんが大好きだったんだ、と気づいた、大人になった今の心。好きだったんだ、と気づいたとき・・・病弱な娘を力強く、たくましく育てたかったのかな、とか、病気に負けない、強い心を持った子供になってほしい、とか、自分の娘なんだからできて当たり前だ、という〝親ばか″的な絶対的な信頼が背後に隠れていたのかもしれない、とか・・・色々なことが一気に〝わかって″くる。そんな〝はんせいかい″を行っている時間が、宮城さんにとっての詩作だったのだろう、と思いました。

「未完のなぞり絵」で、お父様が手を止めてしまった瞬間を読んで、涙がこみ上げてきました。その時、娘が成人するまで生きてはいられない、ということを、ひしひしと感じて辛くなってしまったのかもしれません。娘さんの中で生き続けているからこそ、詩に現れる。詩の中で動き出す。止まっていた「お父さんの時間」が、宮城さんの中で再び動き出す・・・もしかしたら、これからお父様のイメージは、白髪が増えて、皺が増えて、腰が曲がって・・・立派になったなあ、などとニコニコ笑いながら現れる、そんな好々爺のイメージになって行くかもしれません。

私の父は64歳で亡くなりました。高校の歴史教員でした。喘息の生徒さんを、学校で亡くしてしまったことがありました。授業を抜け出すことの多い生徒さんだったので、教室にいないな、と思いながらも、すぐには探さなかったのだとか・・・トイレで強い薬を吸引していて、心臓発作で亡くなっていたことが、後でわかり・・・それからしばらく、父は言葉を失った人のように過ごしていました。どうしてすぐに探しに行かなかったのか、と悔やまれてならなかったのだと思います。授業を抜け出していたのも、苦しさを紛らわしたり、他の人に心配をかけずに薬で抑えようとしていたから、なのかもしれません。苦しいなら、そう言えばいいじゃないか、と思いがちですが・・・伝えても、きっとわかってもらえない・・・そんな孤独を積み重ねていくうちに、喘息の苦しさを自分一人で抱え込んでしまうようになるのかもしれない・・・「物知りお父さん」の中の、救急車を呼んでもいい病気だということを、大人になってから知った、というフレーズは、さりげないけれど、とても重い一行だと思いました。

 ユーモアや子供時代の瑞々しい感性、弾むような言葉のリズム感などを、大切に詩作に励んでいただきたいと思いました。良い年をお迎えください。
                                    2016年12月30日

by yumiko_aoki_4649 | 2017-12-04 15:17 | 読書感想、書評、批評 | Comments(0)
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